私は、今年初め、知人の依頼で刑事弁護を頼まれました。犯罪をしたこと自体は間違いがなく、被害弁償などの償いをすることによって、最終的にどのような刑になるかが争点でした。被害者と話し合い、被害の弁償も行い、できるだけの弁護活動をしましたが、地裁の判決は実刑判決でした。
しかし、他の同種事件では被害弁償ができているときは執行猶予付きの判決が多いことや、実際に服役したときに高齢の両親の介護ができなくなるなどの本件特有の事情がありましたので、再度、裁判所の判断を仰ぐため、高裁に控訴しました。高裁で再度被告人の話を聞いてもらうなどの審理をしました結果、執行猶予付きの判決に変えてもらうことができました。
一般に、刑事裁判は、地裁の判決で終わりにする被告人が多く、刑事裁判で控訴されるのは、全体の1割程度です。最高裁の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第2回)」に、平成18年の数字が紹介されています。地裁で7万3563人の被告人について判決があり、そのうち控訴があったのは7857人ですから、10.7%です。控訴するのは被告人・弁護人側からがほとんどで、検察官からの控訴は数%と僅かです。検察庁が手堅い仕事をしているためか、それとも裁判所が検察庁の言うことに影響を受けることが多いのか、いずれでしょうか。そして、被告人が控訴をする理由は、「量刑が重すぎる」が7割を占めます。ただ、高裁で控訴が認められる率は2割以下です。多くは地裁判決のままか、被告人の控訴の取り下げで終わっています。
私が担当しました事件は、地裁の裁判官(単独)の判断が重すぎたと思いますので、高裁の3人の裁判官は、見識のある妥当な判断をされたと思います。ただ、高裁の判決文には違和感を覚えました。地裁の量刑判断は妥当でなかったから、変更したはずですが、判決は、そうは書かずに、地裁の判決はそれはそれで妥当なものであったと書いていました。個々に独立しているはずの裁判官までが、同じ裁判所ということで、同僚・後輩をかばう身内意識があるのでしょうか。決まりの文言になっているのかもしれませんが、事案に応じて、適切な表現に改善されてよいことではないかと思いました(弁護士松森 彬)