西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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内縁の妻が遺族厚生年金を請求した訴訟で勝訴判決を得ました

国を相手にした行政訴訟で、勝訴の判決を得ました。地方裁判所(大阪地裁)の判決でしたが、被告の国と補助参加人の戸籍上の妻は控訴せず、判決は確定しました。控訴がされなかったのは、こちらから証拠を十分に出せたことや、地裁裁判官が丁寧な事実認定と法的判断を判決に書いたことがあると思います。法律雑誌等に紹介されると思いますが、同様の問題を抱えておられる人もあるかと思いますので、ケースをご説明します。

男性は、内縁の妻と夫婦として生活されてきましたが、病気で死亡されました。戸籍上の妻とは、7年8か月の間別居で、この間、2度の離婚調停がありましたが、まとまらず、死亡時は男性が提訴した離婚訴訟が進んでいました。内縁の妻と戸籍上の妻は、ともに遺族厚生年金の請求手続を行い、行政は戸籍上の妻に受給権を認めました。私は、離婚訴訟のときに男性の代理人を務めていた関係で、内縁の妻から相談を受け、国の処分の取消しを求める裁判を提訴しました。

この度、大阪地裁は、行政の処分を取り消して、内縁の妻に年金を支払うようにとの判決を出しました。このあと、内縁の妻は、男性の死亡時に遡って、遺族年金を受けとることができます。他方、戸籍上の妻はこれまでに受領した年金を国に返すことになります。

裁判の争点は、戸籍上の婚姻関係が実態を失って形骸化しているか否かの点でした。というのは、遺族厚生年金は被保険者の死亡によって遺族の生活の安定が損なわれることを防止することにありますので、籍が入っていない内縁の妻も年金を受給できることが法律で定められています。問題は、内縁の妻と戸籍上の妻の両方がいる場合であり、どちらに権利があるかが、これまでから幾つもの裁判で争われてきました。

裁判所は、法律上の婚姻制度と年金制度の趣旨の両方を考慮して、「法律上の婚姻が、実態を失って形骸化していて、事実上の離婚状態にある場合は、内縁の妻に年金受給権を認める」としています。法律上の婚姻が破綻しているから内縁の妻に支給しても婚姻法の秩序に抵触しないという考え方です。そこで、本件でも、「男性と戸籍上の妻との婚姻関係が破綻しているか否か」が審理の対象でした。破綻しているかどうかは、別居の経緯、期間、婚姻関係を維持あるいは修復するための努力、経済的な依存の状況、継続的な音信・訪問の有無、重婚的内縁関係の固定性などの点が考慮されます。

行政は、判断基準を設けていますが、別居期間についておおむね10年以上としています。本件は7年8か月程度であったこともあり、行政は、内縁の妻の受給権を否定しました。ただ、この10年というのは、あくまでも目安ですので、これまでから6年10か月のケースで、別居期間は比較的長期であり、婚姻関係は破綻していると認めた裁判例もありました(大阪地裁平成27年10月2日)。本件は7年8か月でしたが、裁判所は、相当程度長期であるとして、他の理由と合わせて婚姻関係は破綻していることを認めました。このように、行政が受給権を認めない場合でも、裁判所に持ち込めば、異なる判断をもらえる可能性はあります。お困りのときは、弁護士に相談していただくのがよいと思います。(弁護士 松森 彬)