西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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弁護士費用の負担を契約書で決めておくことは有効か

裁判をするときの弁護士費用は、それぞれの当事者が負担するという制度になっています。ただ、不法行為の事件では、弁護士費用の一部(損害額の1割程度)が損害として認められます。各自負担という制度はアメリカと同じです。日本やアメリカは、自己責任という考え方が強いように思います。他方、ヨーロッパは、国が弁護士費用を出す法律扶助や弁護士費用保険の整備が進んでおり、弁護士費用は敗訴者が負担します。

このように、日本では、契約違反(債務不履行)の場合は、勝訴しても弁護士費用は相手方に請求できないのが原則ですが、予め、契約書に「裁判になったときは弁護士費用を負担する」と決めておくことは有効でしょうか。

かつては、契約書にそこまで書く例はあまりなく、そのことの効力を争う裁判も少なかったのですが、①東京地裁平成18年5月17日判決、②東京地裁平成19年7月31日判決、③東京地裁平成25年10月25日判決、その控訴審の④東京高裁平成26年4月16日(上告受理申立は不受理)等の判決が有効であると判断しましたので、最近は、そのような条項を入れる例が見られます。

これらの判決は、民法が契約違反があるときの違約金の支払を合意しておくことができるとしており(民法420条)、弁護士費用を払うという取り決めは、違約金の取り決めとして有効であると解しています。

上記④の東京高裁の判決は、マンションの管理組合が管理費などの支払を怠った区分所有者に対して、未払管理費(約459万円)、遅延損害金のほかに弁護士費用を請求した裁判でした。裁判所は、管理組合の管理規約に「違約金としての弁護士費用を加算して請求できる」と決められていたことを理由に、弁護士費用の支払を命じました。なお、国土交通省作成のマンション標準管理規約に、同じ条項が入っています。

この問題は、裁判例が少なく、学説もあまり論じておらず、検討されるべき点は残っているように思います。というのは、通常は違約金は金額が確定しているのが普通ですが、必要となる弁護士費用というだけで確定しているといえるかです。東京高裁の判決は、その額が不合理ではないとして一応チェックをしていますが、その点の問題は残っているように思います。不法行為でも、実際の費用の全額ではなく一定額しか認められないのに、契約書に入っていれば、直ちに全額を認めてよいのかというバランスの問題もあります。契約も、優位に立つ側が押しつける場合もあり得ます。また、消費者契約法9条、10条との関係の議論も必要になるかもしれません。

認められる金額が、実際の弁護士費用の全額か、それとも裁判所が相当であると認める額であるかは、裁判例が分かれています。①は、実際に支払われた額、②は、裁判所が認定した額、③は、裁判所が認定した額(約50万円)、④は③の控訴審の判決ですが、実際に支払われた額(約102万円)でした。なお、④の高裁判決は、趣旨をはっきりさせるために、文言は「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」としておくのがよいと付言していますが、これだけで問題がないといえるかは、上記のとおりです。

弁護士費用に関する取り決めを契約書等に書いておくことが有効であるかどうかなどについて、裁判例を説明いたしました。(弁護士 松森 彬)