西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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最高裁の裁判の期間(どれくらいで判決・決定が出るか)

私が担当しています或る裁判で、当方は勝訴判決を受け、相手方が最高裁に上告受理申立てをしました。お客様から、「最高裁の判決・決定が出るのはいつ頃か」との質問を受けました。最高裁の判決・決定が出ますと、判決が認めた賠償金を受けとることができます。裁判所の統計を使って、最近の上告審の状況をご説明します。

1 最高裁は法律問題を審理
最高裁での裁判は、上告審と呼ばれます。
事実に関する審理は高裁までで、最高裁は法律問題に関する審理を行います。最高裁は、原則として高裁の判決で認定された事実に拘束されます。

2 上告ができる場合
最高裁へ上告ができるのは,①憲法の解釈の誤りがあるとき、あるいは②重大な訴訟手続の違反があるときです。そのようなことは滅多にありませんので、上告が認められるのはゼロか、あっても数件です。(20217月に発表された第9回裁判迅速化検証報告書によりますと、2020年度は上告が受け入れられ、高裁の判決が取り消されたのはゼロでした)。

訴訟法は、上記の理由による上告以外に、③原判決に判例に反する判断があるとき、あるいは④法令の解釈に関する重要な事項を含む事件については,上告受理の申立てを認めています。この上告受理申立ても、圧倒的多数は不受理の決定がされます。2020年度に上告受理申立てが認められたのは、申立があった1902件のうちの32件で、率にして1.7%でした。

3 最高裁で判決・決定が出るまでの期間

上告あるいは上告受理申立てをしますと、その後、50日以内に理由書を提出します。そこから1か月程して、記録が高裁から最高裁に送られます。それは、上告あるいは上告受理申立があってから4か月程後のことになります。

最高裁が判決・決定を出すのは、年によってかなり違いがありますが、この20年間を見ますと、記録が最高裁に届いてから短い年で平均3か月、長い年で平均6か月です。上告あるいは上告受理申立があったときからですと、7か月ないし10か月位後になります。

新型コロナ感染症が拡大する前の2018年は、最高裁の審理期間は平均2.7か月まで短くなっていました。しかし、コロナ感染症の拡大が裁判所の事務にも影響しまして、約2か月も長くなっており、2020年度の審理期間は5.1か月(上告又は上告受理申立から約9.1か月)でした。


期間別にみますと、コロナ禍前の2018年は76%の事件は3か月以内に最高裁の決定が出ていましたが、2020年は32%に激減しました。それでも、2020年度も全事件の72%が6か月以内(上告又は上告受理申立からですと10か月以内)に判決か決定が出ています。

前記の事件の場合、上告受理申立は今年の5月でしたので、最高裁が昨年の平均の期間で決定を出すと予想しますと、その時期は来年2月頃と思われます。幅を持って予想しますと、早ければ今年12月、遅ければ来年4月ころではないかと思われます。(弁護士 松森 彬)

(追記)

前記の事件は、相手方の上告受理申立が2021年5月で、同年9月に高裁から最高裁に記録が届き、翌2022年4月に最高裁の決定(上告受理申立の却下)がありました。決定までは、上告受理申立から1年、記録が最高裁に届いてから7か月でした。(2023年5月29日追記 弁護士 松森 彬)

(追記)

本文では、2020年度当時の状況をご説明しましたが、昨年「第10回迅速化検証報告書」が発表され、2021年(令和3年)と2022年(令和4年)の最高裁の裁判の平均審理期間がわかりました(迅速化検証報告書は最高裁のホームページに掲載されています)。いずれの年度も2020年度よりも、1.5か月程度早くなり、2022年の平均審理期間は、上告事件が3.4か月(これは最高裁に記録が届いてから判決又は決定までの期間ですので、上告からですと7.4か月位になります)、上告受理申立事件が3.6か月(上告受理申立からですと7.6か月位)でした。一部の事件は、上告あるいは上告受理申立から1年以上かかっていますが、9割の事件は1年以内に判決又は決定が出ているようです。

早くなったのは当事者にとって好ましいことですが、最高裁の裁判の現状については、議論があるところです。前記の迅速化検証報告書は、「圧倒的多数の事件が上告事件であれば却下決定又は棄却決定、上告受理事件であれば不受理決定で終わっていることは、前回の報告書と同様である」と書いています。つまり、2022年(令和4年)の上告受理申立事件の既済事件総数は2303件でしたが、そのうち2250件は不受理で、受理されて実質的な審理がされたのはわずか20件でした。20件の内訳は、原判決を破棄する判決が16件、棄却する判決が4件でした。最高裁が上告を受理するのは数パーセントの事件だけですが、もっと多くの事件で実質的な審理を行うべきではないかとの意見が弁護士らから出ています。(2024年10月9日追記 弁護士 松森 彬)