1 【製造物責任法の欠陥の判断枠組が確立したといえます】
「製造物責任法」(PL法)が施行されたのは1995年で、それから25年になります。アメリカ、ヨーロッパにPL法ができ、その影響もあって制定されました。
ここ10年余り(2010年ころから2020年現在)の間に、裁判における「欠陥」の有無についての判断の仕方(「判断枠組」といいます)が確立したと思います。まだ最高裁の判例は出ておらず、そのように明言する文献は、まだ、あまりありませんが、私は、これまでに担当したいくつかの製造物責任に関する事件の経験とその際に検討した裁判例を基に、判断枠組がほぼ定着・確立したと言ってよいと思います。これから製造物責任を検討される場合の参考になると思いますので、最近の機械、自動車、自転車、道具などに関する13件の裁判例が示している判断枠組を、この記事でご紹介します。
2 【かつては判断基準が区々・不明確】
製造物責任法ができてから数百の裁判が起こされました(その前も瑕疵の有無についての裁判が多数ありました)。製造物責任が認められた判決もありますが、認められなかった判決の方が多かったと思います。また、欠陥の有無の判断基準について法律の定めが抽象的であるうえ、裁判における判断枠組が確立していませんでしたので、担当する裁判官の考え方がわからず、当事者・代理人弁護士は、裁判官がどのように判断するかについて、いろいろな場合を想定して主張や立証をする必要があり、苦労がありました。
3 【最近の裁判例の判断枠組】
最近の裁判例のほとんどは、製品事故の被害者が「通常の用法で使用していたにもかかわらず(点検整備が必要なときは点検整備も適切に実施していたことの立証も必要)、製品が破損、出火などの事故を起こしたことを証明したときは、それ以上に製品の欠陥の内容や事故に至った原因・機序までを主張立証しなくとも、欠陥があると推定される」という判断枠組を採用しています。そして、被害者が上記の主張立証をしたときは、製造者(メーカー)は、事故が製品の内部構造以外の外的要因により発生したものであること(欠陥以外の原因で発生したこと)を証明することが必要だと言っています。このような判断の仕方が、法律の条文、立法理由に合致するという考えです。
4 【裁判例】
3件の高裁判決を含め、少なくとも次の合計13件の裁判例が上記のような判断枠組を示すか、少なくとも、そのような考え方に立っていると解釈することができます。
①東京地裁令和2年3月10日判決(自動車)、②東京高裁令和2年2月27日判決(これは④事件の控訴審判決です)、③東京地裁平成31年3月19日判決(ノートパソコン)、④東京地裁平成30年9月19日判決(エアコン)、⑤東京地裁平成25年3月25日判決(自転車)、⑥大阪地裁平成25年3月21日判決(ふとん乾燥機)(判決は、事故原因やメカニズム等の詳しい主張立証を求めることは、製造物責任法の趣旨に反すると述べています)、⑦東京高裁平成25年2月13日判決(これは⑨事件の控訴審判決)(上告と上告受理申立がされましたが、最高裁は平成26年10月29日上告棄却と上告不受理決定をしました)、⑧東京地裁平成24年11月26日判決(大型シュレッダー)、⑨東京地裁平成24年1月30日判決(ヘリコプター)、⑩仙台高裁平成22年4月22日判決(携帯電話が発熱)、⑪東京地裁平成21年8月7日判決(工場の乾燥装置)、⑫京都地裁平成18年11月30日判決(足場台)、⑬広島地裁平成14年5月29日判決(自動販売機)
5 【まとめ】
以上述べたように、最近の判決は、製品事故の被害者が、通常の用法に従った使用をしていたことを立証さえすれば、原則として欠陥があったと推定してよいと判断しており、以前に比べると、製造物責任の追及が比較的容易になっています。私は、数年前に担当した別の法的問題(遺族厚生年金の請求訴訟)の裁判で、その場合の判断枠組を指摘し、それに則った訴訟活動をして、こちらの請求を認めた判決を得たことがありますが、判断枠組を意識した訴訟活動は大変重要です。
ただ、実際の事故では検討するべき点が多くありますので、裁判をする場合は多角的・専門的な検討が必要です。製品事故の被害に遭われたときは、製造物責任法の知識と裁判の経験がある弁護士に相談されるのがよいと思います。(弁護士 松森 彬)