書店で何気なく手にした文庫本が、「アウシュビッツを一人で生き抜いた少年」という本でした。今年(2012年)1月に文庫本(朝日新聞出版)として出たそうです。
少年はチェコに両親と住んでいましたが、5歳のときにゲットーに入れられ、アウシュビッツ収容所で父親は殺され、母親とも離ればなれになります。戦争が終わったとき10歳で孤児院に入れられますが、2年後に探し当てた母と再会します。
その後、17歳でアメリカに渡り、国際人権法の教授になります。国際法が戦争や虐殺を防ぐことに役立つと考えたからです。そして、研究をするだけでなく、世界各地の人権侵害の救済に関わり、2000年から2010年まで国際司法裁判所の裁判官をします。
両親や周りの人々が少年をかわいがった光景に心が救われますが、ヒットラーが率いたナチスのユダヤ人に対する迫害を改めて知ることになります。殺されたユダヤ人の人数は教科書でも数百万人としか書かれていません。人数がよく分からないらしいです。
私が印象的でしたのは、この少年の父親が、ヒットラーの独裁政権は続くはずがない、そのうちつぶれると思っていたということです。しかし、当時のドイツは国の内外から大きな批判はなく、ナチスは続き、そのため数百万人が殺される結果となりました。今も、独裁政治が再発しない保証はありません。最近は独裁についての社会の警戒心が弱くなっているようにも思います。権力の横暴が行き着くところを、この本で見ました。