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150年前の或る国の大統領(リンカーン)の考え

リンカーンの映画を見まして関心が沸き、文庫本の「リンカーン演説集」(岩波文庫)を読みました。リンカーンがアメリカの大統領であったのは1860年から1865年で、日本では明治になる直前の幕末の時代です。

私がリンカーンについて知っていたことは、奴隷制度を廃止したことと、「人民の人民による人民のための政治」という言葉を使ったことくらいでした。演説集を読んで、かなり昔であるのに国の首長がこんな言葉を使って、こういう話しをしていたのかと感心しました。当時のアメリカは、奴隷制をめぐって南部と北部で内戦をしていて連邦が分裂していました。国のトップの責任は重く、国内の議論は激しく、そのなかで思索は深まったと思われます。今の時代の首相や大統領と比較するのは適当でないと思いますが、国の首長のあり方の一つを提示していると思います。

アメリカは国が独立したときから奴隷制はあり、難問でしたが、リンカーンは奴隷制は廃止しなければならないという信念を貫きます。それとともに、国も制度も人民(ピープル)のものであると明言し、首長は人民から委託されて長を務めている公僕だと言っており、この国の民主制の古さを感じます。

約150年前の或る国の行政の首長が、どんな言葉を使って、どんな話しをしていたか、その一端をご紹介します。

(黒人の権利と奴隷制について)  「黒人は、生活、自由及び幸福の追求に対する権利において平等であります。黒人が己れの手で獲たパンを口にする権利においては、白人黒人を問わず、他のすべての者と平等であります。」(文庫本70頁)

(国や制度は人民のもの)  「この国も、その制度も、この国に居住する人民のものであります。国民が現在の政府に飽きてきた場合には、いつでも憲法上の権利を行使して、政府を改めることもできますし、あるいは革命権を行使して政府を解体し打倒することができるわけであります」(125頁)。「私の望むところは、すべての人々のために政治を司ること(人民のための政治)である」(155頁)。「(われわれが身を捧げるべきは)人民の、人民による、人民のための、政治を地上から絶滅させないため、であります」(179頁)

(公僕である)  「行政長官である大統領の持つ権能はすべて国民に由来するものであります」(127頁)。私は、アメリカ国民の公僕である(118頁)、私の権限は委託されたものである(趣旨)(118頁)

(行政の首長として何をするか)  「できる限りのことをして、各地の人民が完全に安全の保障を与えられるようにし、静かな思索と反省ができるようにしましょう。」「国家の難問を平和裡に解決し、同胞間の共感と愛情を取り戻すという方針と希望とを持って努めたいと思います。」(119頁)

(独裁制への警戒)  多数の意見が尊重されるべきで、少数派の支配は容認できない。無政府や独裁制になることは避けなければならない(趣旨)(122頁)

(アメリカという国について)  「87年前、われわれの父祖たちは、自由の精神にはぐくまれ、すべての人は平等に作られているという信条に掲げられた、新しい国家をこの大陸に打ち立てました。」(178頁)

(最高裁について)  最高裁の判決は行政において非常な敬意と尊重が払われるべきである。国民も、その限度において国民の政治を事実上最高裁の手に委ねたことを認めなければならない(123頁)。

上記は私が通勤途中に読んで共感を覚えた個所です。国の首長のあり方や政治のあり方を考えることができる本であると思います。(弁護士 松森 彬)