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ポピュリズムと排外主義の台頭(お正月の新聞から)

新年明けましておめでとうございます。

元旦の3つの新聞の社説を読んでみました。新聞社の論説委員は、世界のこと日本のことで一番気になることをどう書いておられるかと思ったからです。

提言の内容は異なりますが、問題の認識に共通する部分がありました。それは、世界各国で大衆を扇動する「ポピュリズム」が拡がっていて、社会に分裂や亀裂をもたらしているという指摘です。

ポピュリズムという言葉は、ふだんあまり使われない言葉ですが、学者によると、理性的に判断する市民よりも、情緒や感情によって態度を決める大衆を重視し、その支持を求める政治姿勢を言うとしています。エリートが腐敗したり、特権を是正しようとしたりするときに改革のエネルギーになることもありますが、大衆の欲求不満や不安をあおって政治家が支持を集めようとしますと、民主政治が危険な方向に向かうことがあります(知恵蔵2015の山口二郎北大教授の指摘です)。日本では大衆迎合主義と訳されることが多いようです。ヒットラーのナチズム、イタリアのファシズムなどもポピュリズムであったと言われています。

いずれの社説も、昨年は世界各国でポピュリズムの政治家が台頭し、勢力が拡大していると指摘しました。第1は、1月にアメリカの大統領に就任するトランプ氏が理念よりも損得を言い、排外主義と国家の偉大な復権をあおっていることです。第2に、イギリスが欧州連合(EU)からの離脱を決めたことです。第3に、フランスやドイツでも移民の拒否や反欧州連合を言う政治勢力が支持を増やしていることです。

この問題に対して、どう対応するかですが、朝日新聞は、ポピュリズムが権力の暴走や独裁的政治にならないようにするためには、憲法が定めている個人の尊重や基本的人権を守る考え方である「立憲主義」を遵守することが重要であることを指摘しています。朝日新聞の社説の見出しは「憲法70年の夜明けにー『立憲』の理念をより深く」でした。

毎日新聞の社説は、「私たちは歴史の曲がり角に立っている」と書き、今のポピュリズムが排他的で、国際協調の放棄や排外的ナショナリズムであることに強い危機意識を表明しています。方向としては、持続可能なシステムの再構築に努めることと、「日本は他国との平和的な結びつきこそが生命線である」と言い、この大原則を再認識することが肝要だと書いています。見出しは「歴史の転機ー日本の針路は世界とつながってこそ」でした。

読売新聞の社説も、排他的な主張をすることで大衆を扇動するポピュリズムが広がっていることは大きな問題だとしています。そして、世界における人や物の自由な移動は保障されるべきで、自由貿易によって新興国の活力や技術革新の成果を世界に広げることが必要だと書いています。見出しは「反グローバリズムの拡大防げ」でした。

各新聞の社説は、ポピュリズムが持つ危険な面を指摘している点では共通です。その政治手法として持つ危険な点については立憲主義で制約することが必要です。また、内容の持つ排他的な側面についてはそれが真に内外の人々のためになるのかという検討が必要です。

ポピュリズムは、問題を単純化し、短いことばで大衆をあおり、思考や議論を回避する傾向があると言います。それでなくても日本では政治について批判したり、議論したりしないという外国人の感想を聞きます。国会、社会、学界はもちろん、テレビ、新聞、本などで、ポピュリズムの歴史と危険な面を指摘するとともに、もっと政治や社会、経済について広く検討や議論がされる必要があると思います。(弁護士 松森 彬)