裁判では、原則としてすべての証拠を取り寄せることができます。アメリカでは、ディスカバリー(証拠の開示を求める手続)という制度があり、事件と関連する文書であれば提出を求めることができます。また、フランスやイタリアでは、司法による紛争解決に協力すべき国民一般の義務として、秘密等の正当な理由がある場合を除き、文書提出の義務があるようです。ドイツや日本では、従前は提出義務があるのは、当事者のために作成された文書などに限定されていましたが、日本は、1996年の民事訴訟法の改正のときに、限定列挙を止めて、すべての文書について提出を求めることができることにしました。
裁判になっても文書の所持者が提出しないときは、裁判所に「文書提出命令」を申し立てることができます(法220条)。文書提出命令の申立がありますと、所持している当事者が任意に提出することも少なくありません。ただ、主張が対立している事件では、所持者は、提出義務の例外に該当するとして、請求に応じない場合があります。提出義務の例外として、しばしば問題になるのは、「技術又は職業の秘密に関する事項」が記載されている文書、あるいは、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」にあたるか否かです。所持者は、そもそも証拠として調べる「必要性」が無いと主張することがあります。
私は、裁判所の判断がなかなか示されないことに問題があると思います。私が経験したケースでは、申立から5か月間、裁判所は判断しませんでした。5か月目に、「申立を認めるつもりだ」という意見を表明しましたので、相手方が文書を提出しました。また、裁判所は7か月間、判断しませんでした。ようやく7か月目に「インカメラ」という手続(裁判官だけが文書を見て除外理由があるかないか判断する)を決定したということもあります。他の弁護士からは、ずっと判断が示されず、証人尋問の直前になって判断が示された例や、結審の直前になって却下決定があった例も聞いています。
アメリカの民事裁判は、双方当事者について「武器対等の原則」を認め、前述しましたように、裁判の早い段階で、相手方の持っている証拠をすべて開示させることができます。提訴から10か月程の間に、必要な文書を入手したり、相手方の関係者の聴取などがすべてできます。そこで、勝ち負けの見通しがつき、ほとんどが解決するようです。費用の問題や乱用防止の問題があるようですが、それにしても、1つの証拠を調べるかどうかについて半年以上もかかる日本の実務は改善される必要があると思います。大阪弁護士会は、定期的に裁判所と実務改善の協議をしていますので、次の協議事項に入れて戴くように弁護士会に提案しました。(弁護士 松森 彬)